『今は今で誓いは笑みで』感想レビュー。ずっと真夜中でいいのに。の2ndミニアルバム
ずっと真夜中でいいのに。の2nd mini ALBUM『今は今で誓いは笑みで』を聞いています。2019年6月12日発売のものです。
「今は今で誓いは笑みで」について
アルバム全体を通して音の作りが素晴らしいです。そこにACAねさんの可愛らしい声が乗り、ずっと聞いてられる音です。
作詞作曲はACAね。彼女についての詳細は明かされていません。
一体何者で、どんな人物なんでしょうか。そのミステリアスな感じも、楽曲を聞く時の一つのエッセンスになっているように思います。
1stアルバムの「正しい偽りからの起床」から7ヶ月。月1曲ペースで作られているようですが、今後人気が出てきて、ライブもやるようになるとこのペースで楽曲作成できなくなる気がします。なのでこんなハイペースでACAねさんの曲を聞けるのも今だけかなと思ったりしています。
以下 『今は今で誓いは笑みで』 のそれぞれの曲の気に入った部分を書いていきたいと思います。
全6曲です。ミニアルバムとなっています。
「今は今で誓いは笑みで」1曲ずつの感想・レビュー
『 勘冴えて悔しいわ 』つかみの曲として最高の1曲
トップバッターの「勘冴えて悔しいわ」。
編曲はラムシーニ。作詞作曲がACAね。
アルバム発売前の6月4日に先行して配信されていました。
最初の曲らしく、盛り上がるアップチューン。ライブの1曲目に選ばれそうな曲です。
イントロの出だしも期待感を煽るようなスタッカートが使われています。
サビの「もう勘が冴えて悔しいわ 無意識に運べたら楽だろうな」。
なぜ勘が冴えて悔しいのでしょうか。少し考察してみます。
「あたしを嫌う鳥の 笑い声を消そうよ 端ないほど集中力が」
「泣き疲れてしまおう リセットを覚えよう 興味ないなら ほっといてくれ」
結論、主人公は神経質な性格のようです。
それもかなりのレベルで神経質です。
「無意識に運べたら楽だろうな」は「無意識に事が運べたら楽だろうな」といういみだと思います。なにをやるにしてもひと目が気になり、「興味ないなら ほっといてくれ」と言っています。
そんな神経質な性格は生まれ持っての能力でしょう。
だから勘が冴えて悔しいのです。
もっと大雑把な性格であればよかったのに・・・。そんな感じでしょうか。
どちらにしても、多感な思春期の時期を歌いきった歌で非常に琴線に触れる楽曲の一つです。
『 正義 』 歌詞の解釈の仕方が難しい曲
「正義」はこのアルバムの発売1ヶ月前にMVが公開されています。
作詞作曲はACAね。
「勘冴えて悔しいわ」と比較すると、少しスローテンポとなっています。
2番の出だし「そっと揺り起こしても~何も変わらぬ存在を大切しすぎてしまうから~♪」のメロがお気に入りです。
「赤い瞳がぼやける音 (ポエッポエッ)」のポエポエの部分も可愛らしくて曲全体に印象を与えます。
ACAねさんの楽曲はこういったちょっとした効果音を入れて遊びをいれていますね。「マイノリティ脈略」にも曲の途中にマリオのコイン(みたいな)の音が入っていました。
「正義」ですが、なんといっても歌詞の意味が非常に難解だと思いました。
おそらく恋心を抱く男の子の歌だろうと考えています。
ただ、他のアーティストのように直線的なわかりやすい恋心を表現しているものではなく、少し歪んだ感情にも見えます。
悪いこと してなくても
秘密を隠し通すことが 正義なら
青い風声鶴唳 押し込んで いつでも帰っておいでって 口癖になってゆくんだ
ここで「正義」の意味が書かれていますね。秘密を隠し通すことが正義であると書いてあります。ちなみに「風声鶴唳」とは「ふうせいかくれい」と読みます。意味は以下のとおりです。
ふうせいかくれい【風声鶴唳】
風の音や鶴の鳴き声を聞いた敗残兵が敵兵かと思い驚き恐れたという「晋書謝玄伝」の故事から
怖気づいた人がわずかのことにも恐れおののくことのたとえ。
出典:三省堂 大辞林第三版より
秘密を隠し通しているといつの間にか罪悪感を感じ、ビビる心を押し込んでいるということでしょうか。わかりません。
正義の歌詞は文の前後が繋がりそうで繋がらないという、どこかスッキリしない気持ちにさせてきます。少し気味が悪くも感じますね。
またね幻
「勘冴えて悔しいわ」「正義」に比べるとスローテンポな曲になっています。
アルバム全体の起承転結を考えると「承」にあたる部分だと思っています。
曲全体で裏で鳴っているピアノが綺麗だと感じました。
かなり感情的なピアノの弾き方です。非常に好感が持てました。特に曲の後半。
何故だろう 見えないものばかり
僕らは信じてしまうけど
僕らは信じてしまうけど 君からもらった いくつもの
幻想が 運命が 刹那声が
言葉にならない僕を生かしてくれてた
嘘みたいに 溢れてくよ 見つけたよ
ACAねさんの歌とピアノがまるで絡まるように、デュエットをするように展開していきます。
『マイノリティ脈略 』 アルバムの中で最高の一曲
今回のアルバムで最も好きな曲です。最も緩急があり、嵐のように感情が走り去っていくような感じです。ずとまよの楽曲の中で一番好きかもしれません。
曲の出だしはゆったりとしたナンバーかと思いますが、サビはアルバムの中でも最も激しく盛り上がる曲です。
その二面性がとても心地よくてヘビロテが止まりません。
リピートしていると曲の終わり方と出だしの雰囲気が違いすぎて、まるで別の曲を聞き始めたような感覚になります。同じ曲なんですけどね。
開始から1分ほどは静かな曲です。
強烈な自己嫌悪を感じさせるようなAメロの歌詞。
「実は僕はこう見えて強引にビリビリに包装紙破ける」という、主人公の自己主張から始まりますが、この後にくるサビを知っているとまさに嵐の前の静けさを感じさせます。
登場人物は日常生活では自分を押し殺しているんでしょうか。
一人称が僕なので、男性かもしれません。
「消え去りたいね 捏ねくり回して塞いだってもう 割り切りたいよ」
「気づかれたくて でも冷静でいるんだ 帰れなくなる前に痛んでよかった」
気づかれたくてというのはキーワードかもしれません。
普段温厚な人物の表の顔がこのAメロ、Bメロの部分だとすると、隠し持っている感情を表に出したいのではないでしょうか。上手く本心を隠していても、それをさらけ出したくて仕方がない。
消え去りたい=表面上の嘘の顔を消したいという意味だと思いました。
「帰れなくなる前に痛んでよかった」
これは物質的に帰れなくなるという意味ではなく、隠喩だと思います。
本心を隠すためのもうひとりの自分が本当の自分に成り代わってしまう前に、そのことに気づけてよかったというように感じました。
人間は表の顔と裏の顔がありますが、長いこと2つの顔を使い分けていると、どちらが本心かわからなくなります。この主人公はどっちが本心かを忘れてしまう前に自分を取り戻せた。そのことがこの後のサビの盛り上がりに繋がっていると思います。
1分10秒あたりの「紛らわして紛らわして」のサビから楽曲の表情がぐっと変わります。
ここで主人公が晒したいと思っている感情の片鱗が見えてきます。
「触れたい=凌ぎたい=口にはしない 散々確信しているから」
心のうちを開放しているかのようなアップチューンなのに、結局「僕」は口にはしません。何かの確信をもっているからだそうです。
「見つめ合う時、僕でいられるなら 足りない=繋ぎたい=全て成らない 方が仲良しだね、よかった」
目と目が会う時平常心を保てないほど自我が保てない。
すべてを曝け出さないほうが仲良しでいられる。
だいぶわかりにくくしていますが、おそらく「僕」には気になる子がいて、その子に本心を打ち明けたいんだと思います。でも打ち明けない。失敗が目に見えているから。
すべてを打ち明けなければ「仲良し」でいられる。
なんとなくわかる気がします。本当に好きな子と仲良しでいられる。本心を打ち明けてしまったらその関係が壊れてしまうかもしれないのが怖い。
甘酸っぱくて切ない歌詞だと思いました。
サビの後も音の数は減らずドラムも軽快なビートを保ちます。
同じAメロ、Bメロでも印象が全く違いますね。曲の構成が本当によく練られていると思います。
2番以降も「僕」の葛藤が描かれています。
マクロな視点で見ると、好きな子に本心を明かしたいという曲だと思いますが、悩みの対象は自分自身にあります。
言いたいことを言いたいけど言えない。
そんな葛藤を主題として歌であり、安直な恋の歌ではないのをヒシヒシと感じます。
「今わかるなら問いときたい 喋ろ ただ自分になりたいの 一刻も早く」
結局この歌詞の登場人物に想い人に本心をすべて見せることはできなかったようです。
「足りない=繋ぎたい=言葉にしちゃう から ありがと、で良かった」
しかし、最後には好きな子へ「ありがと」と言えたようですね。
こんなハッピーエンドもありかもしれません。
『 彷徨い酔い温度 』音頭と温度をかけた奇抜な曲
「彷徨い酔い温度」はまた少し趣の違った楽曲になっています。
曲を聞けばわかりますが、これは音頭です。
ある種民謡のようのような楽曲ですね。使われている楽器も和太鼓など音頭になくてはならないものが使われている。
盆踊りに使えそうな曲です。
温度と音頭で韻を踏んでいるということでしょうか。
曲調も明るい調で統一されています。
対して歌詞を見ていくと、どこか悩みを持ったものになっています。
まるで音頭でみんなが盛り上がっている音をバックに、自分自身はその音に馴染めず、また自己嫌悪におちいっているようですね。
恥ずかしい今に飛んでった僕は
まだ此処には たぶん いるみたい?
走らないで 怯えないで 転げそうな
病みに酔い痴れて やっと立ち上がろ
ワニになって 朱鷺になって 蟹になって 灰になってさ
完璧が つまらぬようにさ
朱鷺とは「しゅろ」と読み、馴染みのある言葉では「トキ」。
絶滅したと言われている生き物です。
『眩しいDNAだけ』 アルバムの最後を飾る曲
アルバムの最後を飾るのが「眩しいDNAだけ」。
2019年2月にMVがyoutubeに公開されています。
再生回数は2019年6月の時点で600万再生を超えていました。
少しラップ調が混じった楽曲です。
最後まで聞いていくと、楽曲のレパートリーの豊富さに驚かされます。
ポップ調、民謡調、ラップ調、ロック調。
ACAねさんの頭の中がどうなっているのか一度覗いてみたいです。
歌詞をみていくと「罠」を「輪奈」と言い換えたり。
「暮らしていく」を「暗してゆく」と言い換えたりしています。
犠牲にしたって本心だけ
この歌詞が『眩しいDNAだけ』の本質のような気がします。
自尊心はなく、誰に決められたとも言えないシナリオ通りにくらしてゆく。
変えたいけれど変えられない。気づいたときにはまた朝がやってくる。
無難に無害に暮らしてゆくだけ。
最後に
以上、ずとまよの2ndアルバム『今は今で誓いは笑みで』の感想・レビューでした。
こうしてすべての曲の構成と、歌詞を読んでみると色々なものがわかったように思います。
曲全体で見るとピアノの使い方が印象的だなと思いました。『マイノリティ脈略』、『またね幻』が特にそうですね。
また歌詞を読んでいった時、ACAねの言いたいことは一貫しているなと感じました。
どの歌詞をみても「本心を隠し、生きていることへの自己嫌悪」が含まれていると思いました。
本心を隠して生きることが「正義」であり、また「犠牲」である。
なにかドラマティックな出来事が歌詞の中で巻き起こるわけではありません。
一人の人間が持つ漠然とした不安をとにかく描ききっているように思います。
これからもずとまよ、ずっと真夜中でいいのにの新曲に期待ですが、今はこのアルバムを味わい尽くそうと思いました。
以上です。