「竜とそばかすの姫」レビュー(細田守版君の名は)|脚本がひどいって言われてるけど実際どうなの?【ネタバレあり】
全体評:細田守版「君の名は」だった
おすすめ度:★★★★☆(4点)
ストーリー:★★☆☆☆(2点)
音楽:★★★★☆(4点)
キャラクター:★★★★☆(4点)
ボリューム:★★★★☆(4点)
見終わった後の感想は「細田守さんは君の名はを作りたかったのかな?」です。
シナリオをプロットで見ても、そんな感じだったと思います。
音楽・キャラクター・ボリュームと全てが無難にまとめられていて正直不満点は少ない作品です。
なんというか、いつも同じ味を提供してくれるマクドナルドみたいな安心感があります。
クオリティは高いのですが、めちゃくちゃ面白いか!?と聞かれるとうーんと答えてしまうような、まぁいつもの細田守だなという感じでした。
前作の大大大大大不評だった「未来のミライ」よりは自分のやりたいこと(性癖)を抑えているような印象でした。
そこは良かったなと思います。
良かった点
竜とそばかすの姫の良かった点を書いていきます。
絵(CG)・音楽が綺麗(ディズニー映画のよう)
まず絵と音楽はディズニーを意識してか非常に綺麗でした(主人公のベルという名前から「美女と野獣」がモチーフになっていると思います)
CGの技術が進歩しており、細田守特有の「枠線のない絵」のCGでの再現率が高くなっていると感じました。
音楽は楽曲1曲をまるまる歌うくらいがっつり収録されていましたね。
映画館の音響で聴くと迫力満点だったと思います。
自分の都合のいいように動く「大衆」が逆に綺麗に描かれていたこと
SNSにいるような人たちは本当に困った人たちです。
自分の都合のいいように論点をすり替えるし、基本的に綺麗な存在ではありません。
エンターテイメントとしてはそういった「大衆」は汚く描かれることが多いですが、今作では皮肉っぽく綺麗に描かれていたのは良かったです。
脚本の核となる部分に昨今のSNSに対する問題提起が含まれています。
SNSでは日々罵詈雑言が飛び交っていますが、この映画ではその現象について描写していました。
「姿を出したらお前の歌など聞かれない」
「なんかこの曲、僕のために歌ってくれているような気がする」
などなど、うろ覚えですが何かしたらすぐ叩かれるというちょっとした炎上まで描かれていました。
現実のネットで起きていることの方がよっぽど凄惨ですが、ネットは怖いところであることはこれを見れば子供たちに伝わるのではないでしょうか。
細田守の性癖が前よりも隠れていた
細田守の性癖は「ショタでケモナー」だと私は認識しているのですが、竜を見た瞬間に正体は「少年」だろうなと思ったのですがやっぱりそうでした。
「バケモノの子」「未来のミライ」は細田守の性癖が全開で本当にひどいです。
今回はそれが抑制されて、マイルド(ゼロではない)になっていたのが良かったです。
主人公のすずの周りにショタがいなかったのが何よりでした。
(キングカズマみたいな人がいたらもう見ていられなかったと思います)
竜の正体とベルとのロマンスを見ていても羞恥心が湧かなかった
個人的に一番気に入ったのは竜とベルのロマンスです。
音楽で自分の気持ちを表現することはディズニーが散々やってきていることではありますが、常々オーバーな演技に少し嫌気がさしていました。
なんかディズニーのロマンスって見ていて恥ずかしい気持ちになるんですよね。そばかすの姫ではそんなに恥ずかしくなかったです。
つまらなかった点
竜とそばかすの姫のつまらなかった点を書いていきます。
その恋愛描写いる?
まずサイドストーリーで繰り広げられるルカちゃんとカミシンの恋愛描写ですが、やるならもっとしっかり描いて欲しかったです。
序盤にルカちゃんがカミシンを見て、目を背けるシーンなど伏線はありましたが、キャラクターが掘り下げられる前の伏線なので思い返してみて「あーそういえば」って思うくらいです。
思春期真っ只中の高校生は3秒に1回はエロいことを考えていると偉い人が言っていました。
なので恋愛描写は必要不可欠だとは思うのですが、かなり唐突ですしストーリー上その件は特に必要ありません。
もう少し脚本として練ってもいいんじゃないかなと思った次第です。
恋愛描写で言うと「すずとしのぶくん」もそうですね。
というかしのぶくんが何を考えているかマジでわかりません。
キャラの役割としてはすずの行動の原動力になっているんですが、キャラクターとして何を考えて発言をしているのか意味不明です。
アスペルガーを疑ってしまうくらいです。
敵は誰だ、そして何だ
この作品の敵役として竜の正体である少年とその弟の父親が該当します。
この父親のやりたいことがよくわかりません。
弟が家の外に出られていることから監禁はしていないようですが、外に出ると怒ります。
部屋に閉じ込めているのにネットやパソコンは与えています。(カメラ付き)
通報されるのが怖かったらネット環境なんて与えません。
しかも堂々と新聞のインタビューにも答えています。
マジで何を考えて行動している人間なのか理解不能です。
これは後述しますが、脚本に問題があると言われる一番の原因は彼の言動にあるような気がします。
脚本がひどいと言われている理由
ここから本題です。
「竜とそばかすの姫」の脚本で違和感を抱いた点はこちらです。
- すずが父親と距離をとる理由は何?罪悪感?恨み?
- すずの歌が上手い理由は?母親が死んでからは歌を歌えなかったからそれまでに技術を習得したのか?
- Uの耳につけるデバイスは何?視界までジャックされてるの?
- Uの中でみんな何してるの?フォローってどういうこと?何が通知されるの?
- 殴ったらアカウント凍結ってどう言うこと?どういうゲーム?
- ジャスティスを応援する企業はなんだ?なんで応援するんだ?
- ジャスティスの部下って誰が好き好んで参加するんだ?AI?
- ジャスティスのリーダーが持ってる緑のレーザーはなんで持ってるの?作ったの?
- しのぶくんやおばちゃん5人組がベルをすずだと見抜いたのなんで?声質?でも母親死んじゃってから歌ってないんでないの?
- 竜がベルのライブ会場に入ってきたとき扉が空いたのはなんで?誰が開けたの?
- 人の抑圧された能力をUのデバイスが解き放つってすごくない?引きこもりいなくなるで。
- ヒロちゃんの画像解析技術すごすぎないか?瞳に映る画面とか窓の景色とか。
- 例の父親が子供を監禁するのはなぜ?
- 脱走されているからそもそも監禁していないのか?
- 監禁している割にはなんでネット環境を与えているのか?
- すずが東京に一人で行くのは無茶では?何時間くらいかけて移動した?その間に兄弟は何されてたの?
- Uの中にある隠された城ってどういうこと?竜が作ったの?
- ジャスティスは薔薇のデータから何を読み取って場所を割り出したの?IPアドレス?
- 竜の城にいるAIってなに?竜が作り出したの?このAIって最後どうなったの?
- アズの見た目って一回決めたら変えられないの?最初にゴリラ型とか引いたら悲惨すぎない?
- アンベールってなんだよ。怖すぎないか?自動で自分の体を3Dスキャンかけられるってことでしょ。
- ジャスティスはアンベールして竜の正体を暴いて何がしたかったの?晒したら勝利って2chネラーみたい。それを応援する企業って。
- 竜だった少年は保護されたのか?
- カミシンはマンション2棟の位置を言い当てるためだけのキャラだった?
- クリオネのアカウントは弟のものだった?
- しのぶくんはUのアカウント持ってないの?
- 竜を応援する子供たちの番組は一体何?子供でもUを使えるのか?
ちょっと書き出してもこれだけの?マークが頭に浮かびました。
これだけ疑問点が頭にありながら作品を追うことはなかなか難しかったです。
なんでだろうと考えているうちにキャラクターたちはどんどん動いていってしまいますから。
もちろん私自身アニメはフィクションであることは理解しています。
しかし公式サイトにはこの映画についてこう書かれています。
現実世界と仮想世界。2つの世界、2つのアニメーション。
細田作品ならではのリアル×ファンタジーの絶妙なマリアージュと、かつてない圧倒的スケールの物語を実現させるため、役者、音楽、デザイン、アニメーション、CGなど各ジャンルに多様性溢れる才能が奇跡の集結。
竜とそばかすの姫 イントロダクション
現実の世界と地続きである以上、それなりの説得力、動機、つじつまは合わせるべきだと思います。
それこそがリアリティに繋がり面白さに繋がるのではないでしょうか。
「竜とそばかすの姫」は確かに面白いものではありましたが脚本に穴がありすぎる作品だと私は思います。