養老孟司「ヒトの壁」要約・レビュー(壁シリーズ最新作)
養老孟司の最新作ヒトの壁を読了したので要約とレビューを書いていきます。
平成で最も売れた新書として有名な「バカの壁」から続く壁シリーズの最新作。
疫病やオリンピックなど揺れに揺れた令和初期を養老孟司はどういう切り口で表現するのか。
著者の「養老孟司」と「バカの壁」が売れた理由
1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。1989年、『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。1985年以来一般書を執筆し始め、『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体観』などで人体をわかりやすく解説し、『唯脳論』『人間科学』『バカの壁』『養老訓』といった多数の著作では、「身体の喪失」から来る社会の変化について思索を続けている。
著者情報(Amazon)
私は養老孟司の書籍は「バカの壁」しか読んだことがありません。
バカの壁は2022年時点で400万部を超えるベストセラーになっているようです。
養老孟司さん自身も言っていますが、「バカの壁」がなぜこんなにも売れているのかわかりません。
日本記者クラブの「著者と語る」で養老孟司氏は以下のように述べています。
タイトルがいいんだ、ということはだれでもいう。実は新潮社の石井昂さんとは古いつき合いで、彼はこれまでの私の本を読んでくれていました。そこで新潮新書を出すについては、「今度はこの題にするから」といって、向こうが題を決めてきたのです。題をあらかじめ決められて書いたのがあれなのです。書いたといいましたが、実は書いていないんで、あれはしゃべったのです。後藤裕二さんという、四十歳ちょっとだと思いますが、比較的若い方が書いてくれたのです。そのことが、私は非常に大きいんじゃないかと思っているのです
なぜバカの壁は売れたのか
ここで言われているように、養老孟司さんは「バカの壁」を書いていない。
対談形式での書籍というのは当時珍しかったというか、やられていなかったのではないかと思うが、それでベストセラーが売れてしまった。
それは編集者の後藤さんが養老孟司氏の言いたいことをしっかりと理解し、わかりやすい文章に変換してくれたことが大きいと養老孟司氏自身が分析している。
養老孟司著「ヒトの壁」要点・要約
それでいうと「ヒトの壁」は養老孟司氏自身が書いていると思われる。(まえがきにそう書かれていた)
コロナウイルスの影響で「ステイホーム」となったこともあり連載や寄稿をしてこの本になっている。
そのため文章的に少しわかりにくい表現が多々ある。
タイトルの「ヒトの壁」もおそらく後付けのタイトルだと思われるので、書籍全体で伝えたいことのテーマがぼんやりあるが、ツギハギのような構成になっている。
それを踏まえたうえで要約を考えると以下のようになると考える。
- 人生は本来「不要不急」の状態であるのではないか。
- 理屈(ロジック)が世界を覆っているが、それは面白くない。世界を説明することはできない。
- 個人は社会を投影する。AI中心の社会になれば、人はAIに似てくる。
- 生きることに努力するようになると生を実感する。
- 愛猫まるの死への思い
「ヒトの壁」の書評
本書はコロナウイルスの蔓延から2020年東京オリンピックまでの間に書かれた連載や寄稿に対して加筆修正したものであり、当時の社会情勢や民意に関してのエッセイのようなものである。そのためタイトルの「ヒトの壁」という言葉は本文中にはまったくと言っていいほど出てこない。
本書の序盤にはコロナウイルスに関する筆者の気持ちが書かれている。主に「不要不急」というキーワードについて持論を述べているがその結論としては、「人は本来不要不急な生き物である」という1点に尽きると思われる。政府や専門家についての持論も述べているが、ところどころに例え話や昔話が差し込まれるが読んでいてあまりピンとくるものではなかった。もともとが解剖医ということもあり医療関係に関するコメントは鋭い指摘を見せている。
中盤からはAIやオリンピックについての事柄が示される。養老孟司氏は前々から都市への人口集中というか現代社会に関して苦言を呈していたが、本書に書かれている内容もその延長線上にあると考えて相違ない。東京五輪についても書いてあるが、これは世間一般にあふれている言説に対して思うことを書いているだけにとどまっている。最終的な結論としては10年後にオリンピックの是非が問われているだろうとして〆ている。
終盤では愛猫のまるへの思いがつづられているが、個人的にここが一番心に残った。享年19歳と天寿を全うした愛猫に対する思いでや考えが書かれている。猫が役に立つことはないが、人々は猫を求めている。ネズミもとれないし、動きもしない、でもそれでいい。それでも生きていいと思える。今はもういなくなったまるの定位置を見てしまう癖が取れない。寝ているまるの頭をたたきたくても、もうまるはいない。しょうがないから骨壺をたたいている。
まとめ
書籍として面白いかといわれると微妙なところであった。
しかしそれは読み手である私に問題があると考えている。
文章の節々にみられる昔話による例がいまいちピンとこなかった。
これは私が養老孟司さんと同じ時代を生きていないことが原因であると思う。
しかし最後の猫のまるに関する文章が忘れられない。
私も今年15年近く連れ添った愛犬をなくしてしまった。
骨壺を触ってしまう感覚は本当に共感できる。
生前いた場所を見てしまうのも同意だった。
養老孟司さんの年齢を考えてもそうだが、死に対しての文章は心にくるものがある。
そういう意味ではタイトルが「ヒトの壁」なのはなぜなんだろうと考えてしまった。
もっといいタイトルがあったのではないかなぁと。