「うる星やつら(2022)」がいかにつまらないか、旧作とリメイクを比較しながら説明する
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2022年版のリメイク版うる星やつらが放送された。
「うる星やつら」といえば、1980年代を代表する傑作漫画の一つであり、1980年放送のアニメに関しては今でも熱心なファンが存在するほどの名作アニメだ。
「うる星やつら」を知らないという人でも、ラムちゃんや「だっちゃ」という語尾を知っているという人も多いだろう。
そんな名作アニメが令和の時代に蘇るということで、正直言って期待せざるを得なかった。
放送前のPVやメインビジュアルの出来もよかった。
では放送を見た後、自分の胸に込み上げてきた感情はなんだったのだろうか。
それは「落胆」である。少しの希望も残りはしない、圧倒的失望感に襲われた。
それほどまでに2022年版のリメイク版「うる星やつら」が面白くない。本当につまらなさすぎる。
これをOKした製作陣やプロデューサーは何を考えているのだろうか?なぜ30年前のアニメと比較しても、ここまでつまらない出来に持っていけるかが不思議でしょうがない。
正直気持ちに整理はついていないが、とにかく令和版うる星やつらの不満点を書き殴っていこうと思う。
旧作のうる星やつらと、リメイク版のうる星やつらはU-NEXTで視聴できるので、旧作とリメイクを見比べたい方は
U-NEXTで見比べながら見てみると良いと思う。
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声優変更については、一旦置いておく
まず最初に大きな声で言っておきたいのは、今回のリメイクされたうる星やつらのつまらなさに、声優変更はあまり関係ないということだ。
いや、厳密にいうと、「うる星やつら」の1ファンとしてはもちろん旧作の声優で演ってほしかった。
諸星あたるは古川登志夫じゃないとダメ!ラムちゃんは平野文じゃないとダメ!という人も少なくないだろう。その気持ちは痛いほど良くわかる。
正直、神谷浩史の諸星あたるは好きではない。声質を古川さんに似せている感じはするのだが、諸星あたるの「だらしなさ」みたいなものが神谷浩史版諸星には感じられない。
だが、今回のつまらない問題に関しては、あえて声優問題からは距離を置きたい。
それほどまでに、アニメーションの出来が悪すぎるのだ。
声優が合ってる合ってない以前の問題だと考えている。
その問題をこれから記述するのだが、最初に声優に関しては触れておきたかった。
そもそも旧作のうる星やつらの凄さはどこなのかを理解する必要がある
うる星やつらというと、伝説的なアニメという認識があると思うが、その理由をはっきりさせておく必要があるが、見てもらったほうが早いと思うのでまずはいくつか動画を紹介しておこうと思う。
画面全体がうるさいほどに動く
このシーンを見て、「何が凄いの?」と思ってしまうような人はいないと思う。それほどまでに神がかり的なアニメーションになっている。
まず誰が見てもわかるのはこのわちゃわちゃ感。
面堂やしのぶが大声を出しているものの、「声だけではなく、キャラクターの動きそのものがうるさい」というのが良くわかるのではないだろうか。
当時はセル画であり、今の技術のように何枚もの絵を重ねることはできない。
キャラクターそれぞれの動きを1枚の絵に、しかも独立させて動かしているというのだから驚きだ。
当時のアニメーターの技量と遊び心がありありと出ている。
この時点で、うる星やつらの特筆すべき点は、斬新な演出と、アニメーションの動きそのものにあるということがわかっていただけると思う。
動かなくても飽きさせない脚本と演出
しかし、それだけでは伝説的なアニメにはならない。「動きが凄いアニメ」というのはこの令和の時代でも存在はしている。
うる星やつらはあまり動きがないパートでも、脚本と演出、そして細かい演技によってうるささを表現しているのがわかるのが、上記の諸星あたるの母の独白のパートである。
皆さんの近くにもいるであろう母(もしくは自分が母になった人も多いかと思うが)の日常を、切り出すセンスと、共感を呼びつつもどこか詩的な母の語り口。
一度見たら永遠に記憶に残るのではないかと思える。
子供の頃にこのパートを見た時と、歳をとってみた時の印象の違いなども面白い。
語り口で楽しませるということであれば、稀代の名脇役「メガネ」の語りも伝説的だ。
メガネは元々原作でもそれほど存在感があるキャラではなかったのだが、声優の千葉茂さんの演技と押井守監督によって、主要キャラと同じくらいのセリフをもらえるキャラにまで昇華した。
うる星やつらの面白さはキャラの演技と演出と脚本にある!それはアニメーション本来の面白さと言ってもよい
私自身の考えだが、「古いのに凄い!」というコメントを見ると少しモヤモヤした気持ちになる。
どれだけ技術が進歩しても、人のスキルが上がるわけではない。
「技術の進歩=クオリティのアップ」ではないということを知る必要がある。
旧作のうる星やつらを見ていない人は、VOD(ビデオオンデマンド)U-NEXTで視聴できるので、ぜひ見てほしい。確かに画面は4:3で小さいし、音質や画質も今のアニメよりは劣るだろう。
しかしアニメの本質とは、魂や生命を意味するラテン語アニマから語源が来ているように、 「生命を吹き込む」というところにある。
可愛い女の子が空を飛んで電撃して、声優が声を荒げているだけで、こんなに長く語り継がれるはずがない。
うる星やつらにはアニメーション本来の楽しさが詰まっているからこそ、多くの人の心に残り、今でも楽しまれていると思っている。
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リメイクされたうる星やつら2022が面白くない理由を旧作との比較をしながら説明する
2022年になり、うる星やつらが帰ってくると聞いて心が躍った。
またうるさい奴らに会うことができると歓喜した。昨今のアニメは顔のアップに口だけが動くだけのパクパクアニメと成り下がっている。
商業主義に侵され(悪いことではないが)、効率化という手抜きアニメが量産され続けている。
そんな時代にアニメ本来の楽しさを持ったうる星やつらが帰ってくる。きっと最新の技術を取り入れ、存分に画面全体でキャラクターがしっちゃかめっちゃか動き回ってくれるのだろう!そう思っていた・・・。
それなのに、現実は違った。
うる星やつらは「ただのアニメ」になり、劣化して帰ってきた。
そう思った理由を列挙していこうと思う。
キャラが全然動かない!うるさいのは声だけ!
まず新うる星やつらで最も不満があることがある。それは全くと言っていいほど、画面に動きがないことだ。
動かない、マジで動かない。
動かないアニメの何が面白いのだろうか。そこにエンターテイメント性はない。
可愛い女の子が画面の中で笑ってるだけで満足なのか?もしそうであるなら、それは金のかからない、家の中で楽しめるキャバクラと何ら変わりがない。アニメは本当にただの水商売となったのか。
いや、新作でも結構動いてるじゃんという人がいたら以下の比較を見てほしい。
カットは面堂が初登場時に家紋の入った印籠をバシッとお爺さまに見せつけるところだ。
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下げていた頭をスッとあげ、目を見開き、左肩を少し下げ、画面左下から印籠をバシッと見せつける。
見せつけた後は、印籠の質感がわかるような光が走る演出がシュッと入る。
旧作うる星やつらではこのシーンだけで約30枚の動画が使用されている。
この話は面堂が初めて登場する回であり、この動きだけ彼のキャラクター性が視聴者にはっきりとわかる。
「はい、お爺さま!」というはっきりとした返事と、この動きだけで面堂というキャラが育ちが良く、派手でプライドの高そうな男というのが言葉で言われずとも直感的に理解できる。
では新作、2022年版のうる星やつらの3話から、同じシーンを引用する。
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は?
同じシーンなのに、ここまで差があると逆に怒りを通り越して笑いが込み上げてくる。
肩は動かない、目も動かない、印籠の握り方もまるでスマホを持ち上げるような持ち方だ。
照明の観点から見ても、面堂というキャラが若干暗く感じられるような光の当たり方がされている。
部屋の間取りからして、光は画面右側から入ってきているのだからおかしくはないのだが、このカットは面堂の顔が初めてアップで写る場面だ。
それなのにキャラの顔全体に影を入れるのは一体どういう意図があるのだろうか。
涼しげな印象を持たせておいて、実はとてもうるさくて熱血な男みたいなギャップを狙っているのか?とも考えたのだがこのシーンの40秒後には「行って参りまーす!」と大きな声を出しているのでギャップの種明かしにしては早すぎる。
多分何も考えずに制作しているんだろうなと自分の中では結論づけた。
いかがだろうか。
「旧作の方がよく動いているシーンを抜粋しただけだろw」みたいに思う人もいるかもしれないが、間違いなく旧作の方が動いている。
しかもダイナミックに、見ているだけで面白い動き方をするのだ。
これを見ても、まだ新作うる星やつらが面白いという人がいれば是非意見を聞かせてほしい。
絶望的なまでに、旧作うる星やつらの方が面白いし、2022版うる星やつらはつまらないのだ。
演出のレベルが絶望的に低い
早速だがこの二つの絵を見比べてほしい。
面堂家の自家用機を学校側から見上げるシーンの新旧対比である。
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これを見てどちらが「面白い」だろうか?現実的な縮尺に当てはめるのであれば新うる星やつらの方が正しいであろう。しかし画面全体を見たときにスカスカしている印象はないだろうか。
画面の8割くらいが空なのに、ヘリは4〜5基しか飛んでいない。ここは面堂家の財力や権力の大きさを見せつけなくてはいけないシーンだ。そのため旧作くらい空を埋め尽くすほどの大きさの機体を出した方が、視聴者にもわかりやすいし、面白い。
現実の尺度に当てはめたいのであれば、もっとヘリを画面に出すべきだ。リメイク版うる星やつらではこの後に、「面堂家の資産は5兆ドル」ということがわかるのだが、5兆ドルあるのにこれだけ?と見返した時に思ってしまいかねない。
決闘方法として登場する大砲の描写も新うる星やつらではただ横に突っ立っているだけなのだが、旧作の方では大砲を触り、腰に手を置き、自信満々なキャラクターがそこにはいる。
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新うる星やつらでなぜこんなにもあっさりとした演出になっているか甚だ疑問だ。演出は動画作業と違って、多くの予算は必要としない。ただアニメーターとしてのセンスが求められる仕事だと思っている。手を腰にやるとか、砲台をキラッと光らせるとか、ほんの少しの演出がアニメをもっと面白くしていく。
その工夫が新からはまっっっっっったく感じられない。人を楽しませようという気が感じられない。
単純にセンスがないのか、狙ってやっているのか。おそらく前者だと思うが、旧作という最高の見本があるのだから参考にすればいいのではないかと思う。
ゼロからイチを生み出すのは難しい。本当にセンスのある人にしかできない仕事だ。
しかしゼロイチの仕事ではないはずだ。旧作を参考にして生まれ変わらせる。そんなことすらもできないスタッフで作られているのか?と考えてしまう。
クラスメイトに存在感がない
2022年版うる星やつらに不満点を述べよと言われればいくらでも出てくるのだが、最後に一つだけ言わせてほしい。
新うる星やつらではクラスメイトにまったく存在感がないのはなぜなのだろうか。
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見てみてほしい、全員であたるにツッコミを入れる生徒たち、パンツをズリ下げられ恥ずかしがるメガネ、面堂に近づきつつも、しれっと執事の股間に手を回す女生徒と赤面する執事。どれも生き生きと動き、キャラクター性を感じさせる。
それぞれにセリフも用意され、ガヤとしてアニメ全体を盛り上げる役割も担っている。
うる星やつらの全員が一丸となって、うるささを演出しているのが旧作だ。
では新作では彼らはどのように描かれているのだろう。それがこれだ。
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は?
この斑点はなんだ?なぜ後ろの男子生徒は同じポーズで突っ立っているのか?1人くらい腕組みをしている生徒も書けないのか?
女生徒も女生徒だ。面堂がこれから割腹自殺をしようとしているのに止めようとしている人は誰1人としていないのか。セリフ上では「やめて面堂くん!」と言っているがその思いが画面から伝わってこない。どこをどう解釈すれば新うる星やつらが面白いと思えるのだろうか。これがわからない。
2022年のリメイク版うる星やつらからは、人を楽しませようという気が感じられない
ここまで散々述べてきたように、2022年版うる星やつらは絶望的につまらない。本当につまらない。
こういうことを書くと「スタッフに失礼」だとか「じゃあ自分が作れ」と言われるがそれは大きな間違いだ。
公表された作品については、見る人全部が自由に批評する権利を持つ。いやなら誰にも見せないことだ。
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そして旧作と新作を比較するのも自然なことだ。比較した上で、旧作の方が圧倒的に面白いことを私は確信した。旧作をまだ見たことがない人がいたら、U-NEXTで旧作が視聴できるので是非見てほしい。
だからこの記事を書いている。
ここまで書いた上で、どうしても言っておきたいことがある。新作のうる星やつらから、人を楽しませようという気が感じられないのだ。これは具体的な例はなく、直感的なものだ。確かに新作でもキャラクターはしゃべり、ドタバタ劇を演じているのだが、心のどこかに出来の悪い高校生の演劇を見ているような気持ちになるのだ。スタッフ全体が、アニメを作るのが精一杯で、それを見た人の気持ちまで考えられていないように思う。
これが昨今のコロナによる影響なのか、制作体制の問題なのか、3DCGの利用による弊害なのかはわからない。
ただ、なんとなく、アニメの未来は暗い。そんな気になるのだ。
技術は上がってるはずなのになぜ30年前のアニメより動かないのか?
散々書いてきたが、アニメーションは動いてなんぼの世界だ。
コンピューターの発達によりアニメ作りはかなり効率化されているはずである。それなのに、この程度のクオリティしか出せないのはなぜなのか。30年前のアニメよりも動かないというのは大問題だと思う。30年前の車と今の車で、30年前の方が馬力や燃費が良かったら皆さんはどう思うだろうか。
ラムちゃんの笑顔もあたるの言動も、ひどく滑稽に見えてきてしまう。
単純にもっと動かせないものかと疑問に思ってしまうのだ。
もっと動かせ・・・もっと動いてくれ
昨今のアニメが動かないこと自体は私も良く知っている。
だが、うる星やつらというアニメでそれを実行してほしくはなかった。
なぜうる星やつらが面白かったのか、今一度制作サイドに考え直してほしい。出なければ、この新うる星やつらから始めて高橋留美子の世界に入ってきた人が「なんだ、この程度か」と思い、結局旧ファンも呆れさせ新規獲得にも至れない失敗作が出来上がり続けてしまう。
どうか、どうかお願いだから、30年前のクリエイターに笑われないような面白いアニメを作ってほしいと切に願う。