【ネタバレあり】「夢・出逢い・魔性」考察 三人称の罠にまんまとハマりました
こんにちは。
本日は森博嗣の夢・出逢い・魔性を完読しましたので、考察していきたいと思います。
本作はVシリーズの第４作品目です。１作品目から３作品目までについても感想と考察を書いていますので、まだそちらを読まれていない方は、そちらもぜひ読んでみてください。
夢・出逢い・魔性あらすじ
20年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送プロデューサが殺害された。犯行時響いた炸裂音は1つ、だが遺体には2つの弾痕。番組出演のためテレビ局にいた小鳥遊練無(たかなしねりな)は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に……。繊細な心の揺らぎと、瀬在丸紅子(せざいまるべにこ)の論理的な推理が際立つ、Vシリーズ第4作!
アマゾン「夢・出逢い・魔性」購入ページあらすじより引用
今回の舞台は那古野ではなく東京でした。
おなじみになった紅子の元夫である林や紅子の執事、根来や息子のへっくんも出てこないです。
その代わり、出てきた新たな強烈キャラが保呂草さんの知り合いである、探偵の稲沢さんですね。
この方の正体には驚かされました。
夢・出逢い・魔性考察
三人称で惑わされた性別
今回の夢・出逢い・魔性は三人称の語りがキーポイントになってきます。
Vシリーズの特徴として、事件後に保呂草さんが手記をしたような設定になっています。今回も、プロローグでこう書かれています。
物語の中では三人称で書かれているが、保呂草順平、瀬在丸紅子、小鳥遊練無、香具山紫子の四人が、すなわち「私たち」である（ここだけの話だが、実は、記述者である私が保呂草だ）。
夢・出逢い・魔性P 30より引用
このように書かれていると、保呂草さん視点で書かれていると読者は思ってしまいます。私も、当然思いました。なので、紅子さんが稲沢さんを女性だと言っているシーンはびっくりしました。
なぜなら、保呂草さんが最初探偵を探している辻谷さんに稲沢さんという人を紹介した時、こう言っていたからです。
いいじゃん。その彼でいこう
夢・出逢い・魔性P 49より引用
この一言で、読者は稲沢さんは男性であると決めつけてしまいます。
辻谷さんは探偵といえば女性より男性というイメージがあったからなのか、会う前から稲沢さんを「彼」だと決め付けていたようですね。
その後、少しばかり保呂草さん（森博嗣さん）からヒントのような文章が出てきます。
辻谷は稲沢を見て、ちょっと驚いた様子だった。おそらく、彼の抱いていたイメージからかけ離れていたためだろう。もう少し年配で頑丈なタイプ、渋いベテラン探偵を想像していたのに違いない。
夢・出逢い・魔性P 58より引用
全ての真実がわかった後に読み返してみると分かることですが、辻谷さんはこの時、稲沢さんが男性ではなく女性であることに驚いたようです。
しかし、上記引用文の「おそらく」に続く文章は、保呂草さんが抱いたことを書き記しているのですが、読者は保呂草さんが抱いたことを辻谷さんも思っていることだろうと捉える為、まさか稲沢さんが女性であることに気づいたとは全く思いません。
小説だからこそ使えるトリックですね。
私も当然気づきませんでした。
ここで気づいた読者はもう森博嗣マスターと言っても過言ではないかと。
しかし、読者は稲沢さんが女性であったことに関して、『騙された』という感情を持つ人は多くないと私は考えます。
なぜならば、性別のカラクリに関して、小鳥遊くんもキーパーソンでした。
本当は男性なのに紫子が練無を女性として応募してしまったので、女子大生のクイズ番組に出場する際は女装をしていました。小鳥遊練無は自分の性別を改めて周りの人に伝えていたわけではないので、嘘をついていたわけではありません。（紫子がクイズ番組に応募した時に、練無のことを女性として応募したかどうかは不明です）
稲沢さんもこれと同じく読者に向けて私は男性ですと言ったわけではないので、最後に紅子さんが稲沢さんに対して「私が知っている女性の中では、稲沢さん、貴女がたぶん一番ミステリアスな部類に属しますよ」
と伝えているシーンを読んだ時は『騙された』というより『この人もか』と思いました。
犯人が語るシーンについて
今回は犯人目線で書かれているパート（保呂草さんが事件後に明らかになった情報から想像して記述したもの）もありましたね。
このパートの犯人が語っている内容が、男性に恨みを持っている女性の気持ちがすごく伝わってきて、私的にはとても怖かったです。
最初は、柳川が20年前にお付き合いしていた橋本祥子が犯人だと思ってこのパートを読んでいたのですが、橋本は柳川が起こした事故で飼っていた犬と一緒に死んでしまったことが分かってからは、実は柳川の奥さんが橋本と知り合いもしくは橋本は生きていて、苗字を変えて柳川と結婚し殺害したのではと考えていました。
ですが、実際には伊藤雅実というタクシー運転手が犯人でしたね。
伊藤は他人をかぶることが趣味？癖？のようで、かぶっている間は幸せを感じるようでした。伊藤と橋本は接点がないようでしたが、橋本が飼っていた犬を知っていて犬が橋本と一緒に死んでしまったことを知っていたようでしたね。
世の中、いろいろな人がいるかと思いますが他人をかぶることに幸せを感じてしまう人ってなんだかかわいそうだなと思います。
なぜならば、自分・オリジナルの人間がないからです。それって不幸せだと思いませんか？
次はこの作品を読んでいきたいと思います。また読み終わったらレビューを書いていきたいと思います。よかったら、私と一緒に皆さんも読んでみませんか？
今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
